田野畑村蝦夷森地区で「志ろがねの牧」を営む吉塚公雄さんは、東京農大時代の師・猶原恭爾博士の提唱する「山地酪農」を実践すべく、大学の先輩・熊谷隆幸さんを頼って田野畑村に移住。熊谷牧場の「くがねの牧」と共に、40年以上も山地酪農を続けてきました。広大な放牧地を動き回り、天然シバをたっぷり食べて育った牛たちは健康そのもので、「田野畑山地酪農牛乳」はまさに大地の生命力を宿した贈り物。安心と安全に対する吉塚さんの揺るぎない情熱から生まれたおいしさです。
牛本来の潜在力を十分に生かした放牧によって作られる「田野畑山地酪農牛乳」。コクがありながら喉ごしは爽やか、ふわっと口に広がる牛乳の香りは山地酪農牛乳ならではで、そのおいしさに惚れ込んだ県内外のファンに愛されています。
山地酪農の特徴は、急傾斜地の形状と植物をそのまま生かして放牧地にすることです。四季を通して牛は屋外で過ごし、交配も分娩も自然のまま。牛の食事は穀物飼料に頼ることなく、傾斜地に自生した日本シバを中心に季節ごとに育つ植物でまかなっています。
「牛はいつの間にか、人間から与えられた飼料を食べるのが当たり前になってしまったけど、本来は草食獣ですから穀物ではなく草を食べるんです。食べる草に農薬や化学肥料などは一切使わない。シバは夏草なので、シバが活躍できない春と秋には、春草、秋草といったように自生する植物が補ってくれます」と吉塚さん。
現在の放牧地はおよそ18ヘクタール。牛たちは最大傾斜45度もある丘陵地を1日に25キロ近く歩き、自分のペースで草を食べて水を飲み、木陰で休みながら過ごします。そうした環境のもと、牛は自然に足腰が強くなり寿命も長くなるそうです。乳牛の全国平均寿命は5歳程度ですが、山地酪農では20歳まで出産して牛乳を搾る牛もいます。
「山地酪農は一朝一夕で成るものではない。ここで育った成牛がここで出産をし、自然環境に適応できる牛に育ってきました。世の中では粗飼料として扱われますが、健康な牛の元になる天然の牧草は素晴らしいんです。自分の山だけれどいくら見ても飽きないですね。」
そう言って愛おしそうに放牧地を眺める吉塚さん。大学卒業後に単身で田野畑村に移住し、早40数年。酪農地を切り拓くのにも15年という長い年月がかかっています。時に自然の営みに翻弄され、時に自然の力に助けられながらも、家族と共に次の夢へと歩んでいます。
牛乳の乳脂肪分や風味も季節ごとに変化し、春の味、夏の味……と季節を感じられます
酪農の未来、牛のこと、山地酪農について、語りだすと止まらなくなる吉塚さん。その話は、農業を目指す若者へのメッセージ、村の将来などにも広がっていきます。いつもの「やまのひと。」の枠では収めきれない吉塚さんの想いに「特別インタビュー」で迫ります!