気さくな笑顔が印象的な佐々木雅彦さん(46)は、父と共にワカメや真コンブの養殖、サケの定置網漁を営んでいます。真コンブは田野畑村を代表する食材。しかし5年前の東日本大震災によって船を失った人も多く、佐々木さんを含む漁師6人が村の貴重なコンブ漁を支えています。
今月の「うみのひと。」は上に写っている3人のうち、1番奥で小さく見えている方。いつもの「うみのひと。」「やまのひと。」シリーズとは違い、トップ画像を本人のアップ写真にしていないのは、なにも横幅があり過ぎて縮尺がおかしく見えたから… ではありません(かなり恰幅が良い方なのは事実ですが!?)。本人と真コンブがちょうどよいあんばいで写っている横長の写真がなかったためです。他意はありません、あしからず!
で、こちらが今回の主役、田野畑のおいしい!を育む「うみのひと。」 vol.6〜 漁師・佐々木雅彦さん
島越漁港から数キロ離れた沖合に、佐々木さんが育てる真コンブの養殖場があります。栄養をたっぷり含んだ親潮の影響で、海藻類がよく育つ北三陸の漁場。北海道に比べて漁獲高は多くありませんが、昔から真コンブは田野畑村自慢の海産物です。
毎年、11月から12月にかけて種付けをした後、いかに厚く大きく育てるかがコンブ養殖のポイント。冬から春先に増えたコンブの間引き作業を地道に続け、6月後半から収穫がはじまります。
沖のポイントへ向けて船を飛ばします。この日は結構な波で目線より波が高くなることも
2メートル近く成長したコンブを海中から引き上げるのは、体格の良い佐々木さんでもかなりの重労働。高波の影響を受けないように深く下ろしたロープが、潮に流されて一層重さを感じます。
「うみのひと。」vol.3 で紹介したウニ漁の工藤沙織さんもたった1人で海に出ますが、この作業は男性でなきゃ難しそう…
1人、沖でコンブと格闘することおよそ2時間。ドッサリと船にコンブを乗せて帰ってきました。
当然、引き上げるのは人力では不可能。クレーンを使います。この日は、最初、電源を入れてもクレーンが動かず「故障か!?」とヒヤリとしましたが、なんとか解決。故障となれば一大事、やはり日ごろのメンテは重要ですね
浜に着いたらすぐ洗浄。ゴミや余分なヌメリを流します。
ここを速やかに作業するのもポイント。1人ではムリなので協同作業です(お父さんも応援に駆けつけます・上図中央)
しっかり洗ったら、乾燥室へ移動。
「梅雨やヤマセなど天候が安定しない岩手の夏は、天日干しだと十分乾燥できない日もあるため、毎日1本ずつ網に挟んで吊るし、熱風で8時間かけて乾燥しています」と佐々木さん。乾燥後は重石を乗せて形状を整え、主に出汁昆布として出荷されます。
種付けから出荷まで約1年に渡る一連の仕事は、どれも丁寧な手作業の積み重ねによるもの。手をかけてこそ良質な真コンブが育つのです。身が厚くて大きなコンブを獲るため、漁師はロープの深さを調整し、十分光合成をさせることで成長を促していくそう。そのタイミングを見極めるのは難しく、「ベテラン漁師は、沖から見る山々の色を見て判断するんです」と佐々木さん。新芽が出てきた新緑のあたりが調整の頃合いだといいます。
たっぷり大きく肉厚で艶やかな真コンブ。それは、田野畑の環境だけでなく漁師たちの手が育んだものなのです。