【特別鼎談】食・暮らしに見る「田野畑らしさ」って?

4者鼎談_集合フランス料理レストラン『ロレオール田野畑』のテラスから田野畑村の海を背に(手前右から:小松山美津子さん、畠山和子さん、畠山とし子さん、熊谷裕美子さん)

海と山に囲まれた田野畑村。改めて考えると、その恵みの大きさに気づかされます。そこで、村で食や暮らしに深く関わる4人の女性たちにお集まりいただき、田野畑村の食材や地元に伝わる料理のこと、料理コンテストへの意見など自由にお話しいただきました!

【出席者】
● 小松山 美津子さん/田野畑村食生活改善推進員 団体連絡協議会 副会長
● 畠山 和子さん/道の駅たのはた内『思惟大橋レストハウス』代表
● 畠山 とし子さん/田野畑村地域包括支援センター 所長
● 熊谷 裕美子さん/田野畑村漁協 田野畑浜女性部 部長  ※ 文中では下のお名前(敬称略)で紹介させて頂きます

 
―皆さん、田野畑村に暮らして長いと思います。田野畑らしい食材や料理といえば、何を思いつきますか。

裕美子/海のものなら、一年を通してワカメやコンブ、ウニ、アワビ、サケ、イカ、カニなどさまざま味わえますが、長く保存するために「しょがれカゼ」(ウニ)をつくったり、新巻サケにするとか…。保存方法は工夫していますね。

和子豆腐の田楽とか、ひっつみひゅうずなどもよく家でつくります。以前は田野畑にお豆腐屋さんが3軒もありましたし、皆、家々で大豆を栽培していたんですよ。それを田楽や凍み豆腐にして食べていました。

とし子/そういえば昔、県民栄養調査を行った際、各家で何を食べているか調査したところ、田野畑村の大豆製品の量は標準を大きく上回っていたことがありました。

美津子/歯ごたえがあってガッチリした豆腐がおいしいのよね。

裕美子/野菜も四季折々バラエティに富んでいます。ズッキーニなどの洋野菜を育てているお宅もありますね。

とし子山菜も春のバッケ(ふきのとう)にはじまって、ウルイ、ウド、ワラビ…といろいろ。秋は菊の花、キノコとか。冬は大根などの根菜中心ですが、やはり干して保存しますね。

 
小松山美津子さん■小松山美津子さん/田野畑村食生活改善推進員 団体連絡協議会 副会長
村内の食に関する女性団体の中でも最大規模を誇る同団体副会長。昨年の料理コンテストは別イベントと重なり不参加。今年は上位入賞を狙ってメンバーとメニューを考案。

―食材をおいしく長く食べるため、加工や保存方法の工夫をしてきたのですね。

和子/今は何でも冷凍保存できますが、昔は魚介類も野菜も干したり塩漬けにして保存するしかなかったんです。

裕美子/大根を例にとっても、たくあんに限らず季節に合わせて何種類も漬け物にします。即席漬け、甘酢漬け、しょうゆ漬け、ビール漬け、糠漬けと。気温によっても出来が違うから、他の家につくり方を教えても、家のある場所で漬け方の加減が微妙に違ったり。

美津子/そういえば、今年はビール漬けを寒い時期につくったらとてもおいしくできました。

とし子/いろんな保存食があります。地元で採れる食材は豊富だから、万が一隔離されても田野畑の人たちは生き残れますよ(笑)

たくあんに限らず季節に合わせて何種類も漬け物にします。即席漬け、甘酢漬け、しょうゆ漬け、ビール漬け、糠漬けと… (熊谷裕美子)

― 食べ方の工夫や伝統料理は、自然に受け継がれてきたのですか?

とし子/昔は、冠婚葬祭等で親戚が集まることが多く、若い嫁も手伝いに行きました。そこで料理をつくる様子を見て教えてもらう機会があちこちでありました。でも、今は若い世代が昔ながらの料理を知る機会も減っているかもしれません。

美津子/働く女性も増えて、昔のように葬式で何日も仕事を休む時代ではないですから環境も変わりましたね。

和子/食改(田野畑村食生活改善推進員 団体連絡協議会)では、小学校の食育活動に積極的に関わっています。ここ最近は、豆腐やひゅうず、豆しとぎなどをつくりました。ひゅうずづくりは給食の後だったので、先生たちは残ったものを職員室に持っていけると思ったようですが、子ども達に好評でほとんど残らなかったんです。先生たちは喜ぶ一方でちょっと残念な思いをしたようです(笑)。今後は中学校へもぜひ出向きたいですね。

美津子/完成までにはハプニングもありますが、子ども達は目を輝かせています。こういう時間は大事だなあと思います。

裕美子/羅賀では、今年の正月に「羅賀地区の食の文化祭」というのを初めてやってみました。各家のなますクルミ和えなど持ち寄ってみようと。なます一つでも切り方もさまざま。具材も菊や柿が入ったり、紅白なます、カレイなますといろいろでした。カレイの種類もナメタガレイや水カレイなど、同じメニューでもたくさんの味を食べ比べられるのが面白かったですね。来年もやりたいね、と言う声が出ました。

 
畠山和子さん ■畠山和子さん/道の駅たのはた内『思惟大橋レストハウス』代表
一昨年の料理コンテストグランプリ受賞。昨年の審査員長特別賞受賞。若い人向けの郷土料理教室や食事会なども開催し、次世代への食文化継承に努める。

―皆さんそれぞれ、村の食や住民の健康づくりに携わっていますね。

裕美子/漁協女性部では魚を使った料理や、ワカメやウニなどの加工品開発に取り組んでいます。

和子/『思惟大橋レストハウス』では皆でお店のメニューを考えて、最近は「キノコ炊き込みご飯の素」を発売しました。店舗内で何度か開いたランチバイキングは好評で、若いお母さんもたくさん参加しています。「このあいだの料理を家でもつくったら喜ばれました」なんて声を聞くと嬉しいですね。

美津子/私も食改の一人として、学校とか、地域の料理教室とか、高齢者向けのお弁当をつくったり、あちこち出歩いています(笑)。出歩かなくなったら弱ってしまいそう。まだつくり方を知らない料理も多くて、覚えたいものがいろいろあるんです。

とし子/私は保健師として、赤ちゃんの離乳食から高齢者まで、皆さんの食と健康に関わる仕事をしてきました。食改さんとも長いおつきあい。食べるものが本当に大事だなあと感じたのは、6年間老人ホームで働いた期間でした。食事をとらなくなった方が「あずきばっとう」を食べたのをきっかけに元気になることもあって。食べ物によって人の生きる力が回復することを実感しました。

美津子/昔歌にありましたね。「あずきばっとう、煮えたかな〜」って。昔からなじみ深い食べ物でしたから。

和子/高齢者向けのお弁当づくりは、できるだけ村の食材を入れるようにしています。高齢者の方々は、ご飯とみそ汁は自分でつくって食べるようですが、意外と栄養が足りていないです。

とし子/栄養指導や運動指導などもしてきましたが、一つの料理で元気を取り戻す人がいるというのは衝撃でした。慣れ親しんだ味の記憶なのか、思い出を彷彿させたのか……。土地に根ざした心にふれる料理って大事ですね。

美津子/そういえば、亡くなった私のお婆さんが体調を崩した時、「ごど豆」が食べたいと言ったものです。大豆を味噌よりも柔らかく炊いて発酵させたもので、塩を混ぜておくのですね。発酵させてあるため臭みもあってしょっぱいのですが、昔からの伝統食。昔は常備していたようですが、つくり慣れていないと難しく、今後のためにつくり方を覚えたいと思っているんです。

食事をとらなくなった方が「あずきばっとう」を食べたのをきっかけに元気になることもあって。食べ物によって人の生きる力が回復することを実感しました…(畠山とし子)

 
畠山とし子さん■畠山とし子さん/田野畑村地域包括支援センター所長
地域の暮らしと健康(食と医療)を支える立場で、長年にわたって村全域を歩いてきた。本年度はコンテスト審査員の一人として参加。

―食に限らず、田野畑村の良さって何でしょうか?

とし子/今、ここにいる4人はそれぞれ違う土地から嫁に来ています。でも、皆、年月を重ねてどっしりと土地の主に(笑)なってきたのよね。住人が少ない分、お互いに顔を合わせる機会が多く、いろんな場面で人が交流しています。そこに地域の力を感じます。

美津子/〇〇なら誰々さんってすぐ顔が浮かびますからね。若い世代もそれぞれに交流していると思います。

和子/この間は甲地(かっち)地区で「男の料理教室」をやりました。最初は消極的だった男性たちですが、ここ最近はやってほしいとの声も増えています。サケのバターソテーとか、すあま(和菓子の一種)もつくりました。「お前が焼いたサケは旨いなあ」なんて会話が生まれています。いろんな地区でやってみたいですね。

とし子/他の町から来た人はコンビニがなくてびっくりするようですが、昔からなかったのですから、特に不便はないですね。

和子/山もあって海もあって住みやすいところだなあというのは感じますよ。

―やっと3回を重ねた「田野畑村料理コンテスト」についてどんな感想をお持ちですか?

とし子/こういうスタイルは若い人も参加しやすいのでは。田野畑村の食材を使った料理を皆が真似してつくっていけば、それがまた歴史になりますよね。はじまりはどんな形でもいいと思います。皆でつくったり食べたりする場を共有できるのはいいですね。コンテストが新しい伝承のきっかけになればいいですね。

裕美子/できればもう少し食材のある季節に開催してほしいです。2〜3月は魚介も野菜もあまりない時期ですから。私自身はまだまだ教えてもらう立場ですが、昨年(2016年)の開催では「イカの酢漬け」を教えてもらいながらつくりました。見る、聞く、食べるだけでなく自分でつくると、「もっとこうしたほうがいい」と実感として感じる部分が大きいです。

和子/レシピだけでは見えないかくし技があるんですよ(笑)。今年は何を出したら喜ばれるのかを第一に考えました。昔ながらの食べ方で簡単にできるものがいいのかなあと。そうすれば、皆もつくれるでしょう。

美津子/昨年は参加できなかったのですが今年は「食改」メンバーで参加します。普段届けている料理で評判のいいもの、皆さんの声を参考にしながら今回のメニューを選びました。

裕美子/今回は村外からのツアー客も多いので、コンテストというより「おもてなし」というつもりで参加させてもらおうと思います。

とし子/実は、「田野畑流おもてなし料理」ってなんだろうと、と改めて考え直しました。おもてなしって奥深いですね。初めてお会いする方を迎える立場としては、「どなたがいらしても迎える気持ちが通じる料理」というのがいいのかなと思いました。

皆/コンテストを機にいろんな人が田野畑村を訪れて、おいしい食を楽しんでほしいですね。

 

熊谷裕美子さん
■熊谷裕美子さん/田野畑村漁協 田野畑浜女性部 部長
昨年度の料理コンテストでグランプリ受賞。コンブやワカメ、フノリ等、漁協の海産物販売、『茎っこ煮』をはじめ商品開発にも意欲的に取り組む。

 

「第3回 田野畑流おもてなし料理コンテスト」の模様はコチラから

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