荒ぶる海に身一つで繰り出す漁師は、男の世界。そんな男たちの中に、颯爽と動きまわる小柄な女性の姿があります。工藤沙織さん。村で唯一の女性漁師です。お父さんの残した「富司丸」を相棒に、今日も浜へと向かいます。
6月の 田野畑のおいしい!を育む「うみのひと。」vol.3 〜 漁師・工藤沙織さん 登場です
ウニの口開けがはじまる6月上旬。島越漁港は、早朝から漁師たちのサッパ船でいっぱいになります。1艘、また1艘と浜へ出てゆく中に、沙織さんの姿がありました。
夜明け前から舟の準備をして、いざ海へ
70を越える舟がひしめく海はにぎやかな祭りのよう。そして5時、掛け声を合図にウニ漁がスタートします。三陸産のキタムラサキウニは質の良いことで知られており、田野畑村で獲れるウニもおいしさに定評があります。外海に面した島越や羅賀の漁港はミネラルたっぷりの海藻がよく育ち、その海藻類をエサに育ったキタムラサキウニは上品な甘味があってとろけるような舌触り。小ぶりでも身はしっかり詰まっています。
例年6月上旬〜8月お盆前頃までが田野畑ウニ漁のシーズンです
「今年は水温が高めで海藻が繁殖しにくいせいか、ウニが良く見えて収穫量も多いですね」と沙織さん。両手に竿を持ち、体全体で舟のバランスを取りながら箱メガネでウニを探す作業は、女性にとってかなりの重労働ですが、ベテラン漁師の仕事を見て学んだ3年目の今年、やっと獲れる量が安定してきたと笑います。
舟の上では、ただ1人。頼れるものは自分だけです
「消防士だった父が、長年の思いを叶えて本格的に漁をしようと舟を買った矢先に病気で亡くなってしまって。その意志を継ぎたかったし、海が好きですから」。
村の沿岸部にはウニを発酵させてつくる「しょがれカゼ」という料理が伝わり、ご飯に乗せたり、野菜に和えるなどして食卓に上がります。独特の強い臭いとクセがあるため万人向けではありませんが、村の大事な食文化を担っています。漁師として研鑽を重ねると共に、地元の名産づくりにも力を入れていきたいと話す沙織さんです。
田野畑村の殻つきウニの年間出荷量は、約15トン。
その多くは青森・八戸・大間へ向かい、その他は地元の魚市場に並びます