3年前、会社勤めから一転して漁師の道に入った深渡年和さん。ベテラン漁師の義父を師匠に修業中の日々、冬のアワビ漁は一番の稼ぎ時とあって、気合い十分です。年が明けると毛ガニやワカメの収穫シーズンが到来。漁のない日は、実家の菓子店「三正堂」で代々受け継ぐいかせんべいづくりにも勤しんでいます。
吐く息も真っ白な12月。おだやかな早朝を迎えた羅賀港は、独特の緊張感に包まれていました。11月から始まった田野畑のアワビ漁もそろそろ終盤。漁の開始を知らせる音楽が鳴ると、200槽近い船は風を読みながら、それぞれ狙ったポイントへ移動します。3時間でどれだけ収穫できるか、アワビ漁師にとっては勝負であると共に一年を締めくくる祭りのような時なのです。
北三陸に位置する田野畑村の漁場は外海が近いため、風の影響を受けて波が変化しやすく、アワビの口開けはより安定した日を選び抜いて行われます。
「ベテラン漁師は常に風の音を聞きながら、朝いちの浜を見て波が変わらないうちにどんどん獲っていきますが、自分はまだまだで」と深渡さん。幼少期から縁のなかった漁師の道を40歳にして選んだのは、奥さんの父・中村芳男さんの勧めでした。アワビ漁に出る最初の夜は、緊張と興奮で寝られなかったと話します。
アワビを獲るカギのついた竿は4メートルを優に超える長さですが、ベテランほど長い竿を使いこなし、師匠の中村さんはなんと10メートルを超える竿を使っています。
「竿が海中で流されてうまくアワビを獲れないし、狙えないんですよ。でも、ベテランは皆、漁場各所の根(岩)の形を全部覚えていて、ちょっとした盛り上がりや黒っぽい影などを狙ってさっとカギを引っかける。まさに神業ですよ。」
片手に竿(さお)を、もう片方の手で船をつかんで支えています。海中をのぞき込むのぞき台は、なんと口で噛んで流されないようにしています。この体勢での作業がいかにシンドイか… 推して知るべしですね
「アワビは漁師の品評会」と言われるほど、その技術が問われるアワビ漁。師匠から「暇があったら根の形を見て覚えておけ」と教えられた深渡さんは、漁のない日も海に出て岩場を見て回ります。
「大漁で帰った時に家族が喜ぶ顔が見たくて」と深渡さん。船につけた『和昊丸』の名は自身と息子・昊佑くんから一字を取りました。いつか息子に船を受け継ぐ日を夢見て、アワビ漁の腕を磨いています。