建設業に従事していた畠山陸司(りゅうじ)さんが、ホウレンソウ栽培を始めたのは8年程前。12月は冬限定の寒締めホウレンソウの収穫に大忙しです。昔はカメラが趣味だったという畠山さんはもともと凝り性。「何にも特別なことはしてないよ」といいつつ一株一株丁寧に収穫する姿に、真面目な人柄が垣間見えます。
田野畑村の内陸部は、冬になると浜から乾いた風が吹き、ぐっと気温も冷え込みます。寒締めホウレンソウは、その寒さを生かして栽培される北国らしい冬野菜。12月上旬、畠山さんが管理する10棟のハウスでは、すくすくと育った寒締めホウレンソウが収穫の時を待っていました。
本格的な出荷シーズンは12月下旬から。ハウスをのぞくと、土にしっかり葉を広げたホウレンソウがびっしりです。10月上旬に種を植え、堆肥などで土壌の調整をすると、気温の低下に伴ってホウレンソウは旨みを蓄え、徐々に糖度をあげていきます。寒さが増す中、日光をより多く受けようと葉を広げ、縮れて厚みを増していくのです。
「植える時期が早すぎても寒くなる前に成長してしまうし、ほんの1日遅れただけで半月ほど成長が遅れることもある」と、畠山さん。種を植えるわずかなタイミングが収穫に大きく影響するのです。
出荷の目安は糖度が8度を超える頃。糖度8度とは、甘さ自慢のフルーツトマトと同等の基準値です。12月下旬にもなると、朝晩の気温が氷点下になる田野畑。開け放ったハウスの窓からは冷たい外気が吹きこみます。しかしこの厳しい気候こそ、「あさぎり」の品種名を持つ寒締めホウレンソウにとって欠かせない仕上げの要素なのです。
土に張りつくように育った寒締めホウレンソウは、葉を傷めないよう収穫作業も丁寧に… 「カマで一つずつ刈り取ったら、根っこを切って下葉を落として、葉っぱをふんわりまるめて袋詰めして。結構、手間がかかるんだ」
全てを手作業で行うため、出荷作業は地元のお母さんたちも助っ人にやってきます。「ストーブにあたって、皆で冗談言いながら、細々とやってるのよ」と微笑む畠山さん。
採ったばかりの一房は、青々と緑が濃く自慢の出来栄えです。年が明ける頃には11度を軽く超えるものも出てくるそう。甘味を含んだ寒締めホウレンソウは、まずはお浸しで食べるのがおすすめです。