田野畑村から岩泉町へと続く甲地・三沢地区は美しい自然が自慢です。その清流沿いにある佐々木芳利さんのお宅は、300年に渡って土地に根ざした農業を営んできました。現在は、畜産を営む傍ら、自家用の野菜を育てています。知識豊富で気さくな佐々木さんは、ホタルツアーや紅葉ハイキングの地元ガイドとしても活躍中です!
まだ雪深い頃。田野畑村の山間部に暮らす佐々木芳利さんを訪ねました。庭先では、秋に収穫したオニグルミの実を割る作業中。
蝦夷森と呼ばれる同地区では、昔から自生するオニグルミを大切な食材として生かしてきました。オニグルミは昔から日本にある在来種。市販される西洋クルミと比べて一粒から採れる量は少ないのですが、濃厚で香り高く良質な脂を多く含んでいます。
「剥いた実は冷凍保存して使いますが、中身が凍ることなく風味もそのまま。実が凍らないのは脂分が多い証です」と佐々木さん。
2017年1月にパリで開かれた『黄金の國 いわてフェア』では
「ロレオール田野畑」の伊藤シェフが佐々木さんのオニグルミを料理し、好評を博しました。
クルミは5月から6月にかけて花が咲きますが、山間では4月末に遅霜が降りると花が咲かず、実が採れないこともあるといいます。毎年定量を収穫できるわけではないため、たくさん採れた年に保存しておき、正月や節句など「ハレ食」としてクルミ餅やクルミ和えにして食べてきました。
「この辺では、おいしい味のことをクルミ味っていうんですよ」
よく見かける殻つきクルミは種の部分。青黒くなって落ちた果実を剥いて川で洗って、取り出した種子(殻つきクルミ)を1週間ほど天日干しにします。それを割って、中の実を取りだして、すり鉢でクルミ餡を作って……
おいしいクルミ餅を食べるまで、多くの手間がかかりますが、じっくり乾燥することで旨みもギュッと蓄えられます。
「さあ、どうぞ」と差し出されたのは焼きたての餅。濃厚でクリーミーなクルミだれをたっぷりつけて食べるのは、この土地ならではの贅沢です。