三浦太知さんの家は、代々島越地区で漁師を営んできました。三浦さんは、20代まで村外で働いていたのち実家へ戻り、6年前から本格的に漁師として独り立ち。祖父の船から名を引き継いだ前島丸に乗って海に出ています。定置網漁を終えた2月から春にかけては、養殖ワカメの収穫準備が忙しくなる時期。中でも、成長段階で採った「早採りワカメの美味しさは格別」と太鼓判を押します。
三陸で採れるワカメは全国的に知られるブランド品。ワカメの養殖は田野畑村の大切な基幹産業です。
養殖とはいっても、その種となるのは天然のメカブ。親潮が流れこむ田野畑沖は、太陽の日差しがたっぷり注ぐ好漁場なのです。
荒波の刺激を適度に受けて育ったワカメは収穫時に2メートル以上になり、味わい深くコリコリとした食感が評判です。
3月下旬から4月後半にかけて、漁師たちは大きく育ったワカメの収穫に大忙し。しかし、ワカメの出来に大きく関わるのが、浜の寒さが最も厳しくなる2月初めから約1ヶ月に渡って行う間引き作業です。養殖場が外海にあるため、天候や波の高さによって船を出す日は限られます。
そんなある朝、荒々しい海へと勇ましく船を出す三浦さん。漁場に着くと、時間を惜しんで作業がはじまりました。150メートルにも及ぶロープにはすでにワカメがびっしり。
「茎が平べったいのは大きく育つと言われます。目で確かめながら一つずつ……。地味な作業のわりに体力を使うので、実はあまり好きじゃないんです」
と苦笑いする三浦さん。
父の善人(よしと)さんと2人で1日中仕事をしても、ロープ1本分を終えるのが精いっぱい。のべ20日間かけて20本のロープを手入れします。
「早採りワカメの茎は細く、葉も透けるほどの薄さです。さっと湯がいてお浸しにしてひと口で食べられる。つややかで鮮やかな色もこの時期ならではのものです」
一つずつ丁寧に採った新鮮な早採りワカメは、素材そのものを味わえるお浸しやしゃぶしゃぶにして食べるのがオススメです。