【特別インタビュー・後編】田野畑村のおいしい!を育む「やまのひと。」〜山地酪農牛乳・吉塚公雄さん

若き頃「山地酪農」の素晴らしさに触れ、「よーし俺もやってやる!」と一念奮起。先輩を頼って田野畑村に移住し、たった1人で山を拓くことから始めた田野畑山地酪農牛乳・代表の吉塚公雄さん。幾多の困難を乗り越え今に至り、若者たちにエールを送ります。なにが吉塚さんをそこまで駆り立てたのか、目指す酪農の姿はどんなものなのか…? 話はますます熱を帯びていきます。

【特別インタビュー・前編】はコチラ

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先生の話を聞いて「そうか、そんなことがあるのか!」と思いました。もっと早く気づいていたら、立派な人間だったのですけど…(笑)

- 吉塚さんをそこまで奮い立たせたのは何なんでしょうか?

もちろん猶原先生の純粋な想いがありますけど、もう1つ、あまりにも日本の現実がね、飼料を9割以上海外に依存しているという現実がありました。日本が砂漠の国なら仕方ないですよ。でも自給できる国なのに、なんで飼料を海外に依存しなければいけないのか。

これだけ緑に恵まれていて、森の緑はすべて牛にとって食料です。木の葉だって倒れれば牛のエサです。牛はそういうもの、自然のものを好むんです。本来、森林の動物ですから。それなのに牛をつなぎっぱなしにして、短命にして、エサは全て海外から輸入してくる。そうではないだろうと。

- 吉塚さんは、先生の教えに触れたのはきっかけにはなったのでしょうけど、もともとそうした疑問や問題意識をお持ちだったのでしょうね。

いやいや、全然そんなことない。もうボ〜ッとしてました(笑)先生の話を聞いて「そうか、そんなことがあるのか!」と思いましたよ。変わったのはそれからです。もっと早く気づいていたら、立派な人間だったのですけど…(笑)

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ここには隣り合わせて2軒も「山地酪農」があるのですから、ここが「山地酪農の里」になるのが夢ですね。全国に先駆けてね。

- 例えば、一般の牧場で飼われてきた牛を連れてきて、ここに放してあげたら同じように傾斜地を登って草を食べるものなのでしょうか?

いや、山地酪農をやろうと思えば、買ってきた牛でやるのは無理なんです。まぁ、最初は買わざるを得ない。でも生まれた子牛を慣らすように、放牧に向けて仕立てていくということが必要です。ふつうの牛は、もらったエサしか食べたことがなく、自分で草を食べる習慣がないのですから。

飼料的にもですね、TDN、DCP(可消化養分総量、可消化養分タンパク)とかいいますが、これまでの酪農はいかに乳をいっぱい出すかに四苦八苦してきました。私は家畜栄養学をやってきたのでそのへんのことは分かりますが、真に問題にすべきはそこじゃないと思います。逆に、他の酪農家さんにしてみれば、うちの牛はちょっとしか乳を出さないから、霞を喰って生きる方法を講演してくれなんて揶揄されますよ。そんな状態だから、ちょっと意識の断層があるのは感じます。

ただ、量を出すというのは国にとっても大事なことですから、一概に否定するわけではありません。ただ、村の行く末を考えたときには、ここには熊谷さんの「くがねの牧」と私のところの「志ろがねの牧」と2軒も隣り合わせて「山地酪農」があるわけですから、ここが「山地酪農の里」になるのが夢ですね。全国に先駆けてね。

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今、アレルギーをはじめとするさまざまな現代病が出てきています。牛乳を飲めない人がたくさんいる。でも「山地酪農牛乳なら飲める」という。これはどういうことだとずっと考えてきました。

- それが実現すれば、村や酪農界にとってだけでなく、食品業界、消費者の生活にも大きな影響を与えうることですね。

今、アレルギーをはじめとするさまざまな現代病が出てきています。牛乳を飲めない人がたくさんいる。でもそういう人でも、「山地酪農牛乳なら飲める」という。これはどういうことだとずっと考えてきました。これは突き詰めれば、輸入穀物飼料に依存しないということと関係する。輸入穀物とは何かというと、ポストハーベストの問題です。

飼料は皆、船積みです。湿気の多い港から輸出され、輸入元の別の港で降ろされる。ダブルパンチです。だから様々な防腐剤や防虫剤、そして見映えを意識して色素までかける。特に人が直接食べるものではないから、遠慮なくかけてしまう。だから輸入飼料は、ポストハーベストの問題と切っても切れない関係にある。

それらが家畜の腹を通って、牛乳や牛肉や卵となり、人の口に入る。それが当り前になっているから、当り前のように病気も出る。そういうことだと思います。そうでなければ、うちの牛乳だけは大丈夫という説明がつかないですよ。

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農家の「農」は本来、無から有を産み出すこと。これが原点です。でも輸入飼料に依存するということは、輸入した原料を乳に変える。為替相場に四苦八苦するということでしょ。これは農じゃない、加工です。これをやっているうちは、いつまでたっても自然で、安全で、おいしくて、しかも健康に資するものは無理だろうと思います。できるだけ牛にも山にも負荷をかけず、そこから安全で、おいしいものを作れればという想いでいます。

 
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